人中ガール・腰痛ボーイ

 最近は腰痛がひどい。慢性的に痛みを抱えながら生活をしている。たまにバイト中だろうが「ッア!!」と声に出してしまうくらいの痛みが走る。その声を出してしまうほどの痛みにも段々慣れてきて、気付いたらその痛みが普通になっている。そうするとまたそれを上回る痛みが訪れてまた「ッア!!!」と声に出てしまう。だけどまたその痛みにも慣れてそれが日常になる。そうするとまたそれ以上の痛みがやってきて「ッア!!!!」となる。それをこの1ヶ月繰り返した結果おれの腰は21年間の中で最強になっている。日々おれの腰は成長を続けている。早く整骨院に行きたい。

 

 腰痛を抱え出してから再び韓国ドラマを見出した。以前に愛の不時着と梨泰院クラス、よく奢ってくれる綺麗なお姉さんを見てからはしばらく見ていなかったけれど、秋学期の授業が始まるという最悪のタイミングで再び韓国ドラマにハマってしまった。授業もろくに受けずにNetflix漬けの生活を過ごしている。まずは友達から勧められていた「サイコだけど大丈夫」を見始めた。最初の数話で、「ヒロインより当て馬らしき看護師役の子の方が好感持てるな」と思った。この子に幸せになってほしい。そう強く思った。役名はナム・ジュリ。女優の名前はパク・ギュヨン。韓国ドラマって毎回顔と名前を一致させることが大変だけど、彼女だけは1発で覚えた。彼女はどうせ主人公の男に振られてしまうのに…と思いながら見続けるのは辛いものがあった。ヒロインより当て馬の方が好きな場合って最悪だ。ジュリよ永遠に幸せに…と願いながらドラマの中盤から終盤にかけて見続けていると、あることに気付いてしまった。

 

「…ジュリ、人中深くない?」

 

 人中。それは上唇から鼻までに伸びている溝のことである。哺乳類にはだいたいあるらしい。おれはたぶん人より人中に対して神経質な部分を持っていて、初対面の人はまず人中を見ることにしている。おれのプロファイリングから導き出された結果から言うと、ろくでもない奴は人中が深い。おれは人中を見てこれまでの人付き合いを決めてきた。顔のパーツで真っ先に人中が目立つ奴とは関わらない。これがおれの21年間の鉄則であった。

 

 小学生のとき、クラスメートの悪口を書いたメールを間違えて姉に送信したあの子。家に遊びにきた彼女の顔を今でも覚えている。

 

 …人中が深かった。

 

 中学1年生頃までは姉と大親友だったあの子。それから大喧嘩をして、卒業まで口を聞かなくなってしまった彼女の顔を覚えている。

 

…人中が深かった。

 

 高校生のとき、一見爽やかな風貌で人気を集めていた運動部のあの子。1時間喋ったとしても何一つ面白いことが起こらなそうな彼の顔を覚えている。

 

…人中が深かった。

 

 ナム・ジュリ、いや、パク・ギュヨンがアップになり、彼女の人中が人一倍深いことに気付いてしまったとき、おれの心の中で何かが音を立てて崩れていった。

「人中の深い人とは仲良くなってはいけません!

 小学校低学年のとき、道徳の授業でそう教わったかもしれない。あるいは、胎内にいるとき、母から毎日のようにそう聞かされていたのかもしれない。どれだけ他のパーツに愛嬌があろうが、性格が素晴らしかろうが、人中が深ければおれにとって全て意味のないことである。さようなら、パク・ギュヨン…。それからおれは「サイコだけど大丈夫」をどのように見ればいいのか分からなくなってしまった。ヒロインはどうしても好きになれないし、パク・ギュヨンは人中が深い。それから彼女が登場するたびに人中に目がいってしまいあまり集中できなかった。作品は面白かったのに…。こんなことなら人中に無自覚な人生でいたかった…。そう思わずにはいられない。

「サイコだけど大丈夫」、人中に無頓着な人にはオススメです。