留年したかもしれない・徒労・他、2篇

・留年したかもしれない

   賛低単位中である。今年の春に大阪に戻ったときに「今期13単位が留年のデッドライン」と母親に言われた記憶が残っている。そのときは「腹を痛んで産んだ息子が4年での卒業に向けて前しか向いていないというのに、親がそんな後ろ向きな計算をしてどうする!」と憤りもしたが、今考えてみれば、1年の秋学期当初にも2年の春秋学期にも同じような態度を取り単位を落とし続けた息子に期待をしろという方が無理であろう。ちなみにおれは帝王切開で生まれた。逆子だった姉が帝王切開で誕生した影響で、おれは順調に頭から出ていく準備をしていたにもかかわらず、母の身体を通りこの世に誕生することはできなかった。無念。おれの産声には感情が確かにこもっていた。話を戻す。「13単位宣告」を通告されたのは確かちょうどコロナで日本、いや、京都産業大学が揺れていた時期だった。春休みが引き延ばされ、授業がオンラインで行われるのかどうかが注目を集めていた。「オンラインだったらフル単いけるやん!」とか言われていた記憶がぼんやりとある。おれは学校に行くことが最大のハードルとなっていたから。そりゃ、学校行かなくても授業が受けられるなら単位取れるよね、と思うだろう。おれだってそう思っていたから。でも現実はそう簡単じゃなかったみたいだ。春学期が終わって数日、ふと今期の確実に取れた単位を計算してみた。するとあらびっくり、たったの11単位だった。あとの11単位は不安、というか4単位は確実に落としている。言語の授業は結局出れないのがおれの習性らしい。春学期最後の2週はもっと最初から努力しておけば…とひたすらベッドの中で丸まって後悔していた。それは昨年の秋学期終了時の姿と瓜二つだったという…。そんなこんなで留年に腰まで浸かっている。「13単位宣告」の際、同時に母親が「教育ローン」やらの奨学金が止まった際の対処法を同時に提示してきたとき、おれは一笑に付していたが、今はおれがそんなことをひたすら調べている。最近は2日に1日はこれからのことが不安で眠れない日がある。そんなときは「コロナで就職氷河期が見えているこの年に卒業するメリットもない」とひたすら自分を鼓舞するしかない。前向きに捉えていくしかできない。笑ってくれ。

 

・徒労

   阪に住む友達を誘って神戸は三宮、というか元町に行った。コンバースの聖地と呼ばれる柿本商店が目的だった。紫のワンスターを買おうと思っていたから、その分のお金をおろそうと口座を見てみると自分の想定より2万円残高が少なかった。ワンスターは結構定価が高い。柿本商店は品揃えが良いだけで値段はバチコリ定価で売っている店だから、買いたいワンスター分をおろしてしまうと次の給料日前に飢餓の日々を過ごすことが目に見えていた。おいおい、月末にはクレジットカードの請求もあるんだぜ…?震える手で結局ワンスターがギリギリ買えないくらいのお金をおろした。実物を見て欲しい!と思ったら買おう、そう決めた。

 三宮で昼を食べよう、と言っていたから12時半ごろに阪急十三駅に集合、と言っていたのが大阪住みの友達がなぜか20分遅刻するというファンタジーがありつつ13時半ごろに三宮に着いた。気分的に定食でガッツリという感じだったからそういう店を元町に向かいがてら探したけれど案外見つからず、というかあんまり見つける努力すらせずにガストに入った。暑すぎるぜ。結局チェーン店が最高すぎる。遅刻した友達が奢ってくれて昼飯代が浮き、ワンスターをいっちょ買ってやるかと意気込んで柿本商店に向かった。向かっていたはずなんだけど…。元町高架を歩き、横断歩道の向こう側に柿本商店が見える!…はずだった。眼前に飛び込んできたのはシャッターが下されたその店と、かすかに見える「本日終了」と書かれた貼り紙。横断歩道を渡ってその横に貼られた青の張り紙を見てみると「17〜20日まで休業します」の文字。なんかお手本みたいな展開だった。後ろにいた男性2人組はその張り紙を見て「やってへんわ、帰って呑みに行こ!」とものすごい切り替えをしていたけど、こっちは2府を跨いで買いに来たんだ。こんなんじゃただコロナを運んだみたいじゃないか。個人経営の店は盆休みずらすな。これじゃ帰れない。つかSNSなりホームページなり作れよ。自店を目当てに元町まで来る人たちが少なくないことを自覚しやがれ。とんだ徒労だった…。なんのために三宮まできたのだろうか。このまま手ぶらでは帰れないとモトコーにある古着屋でなにか買ってやろうと決めた。こちとら交通費それなりに出してきてるんだ。手ぶらで帰ったら笑われちまう。せめて古着を…。と来た道を戻って古着屋を探すけど、そこにもシャッターが下されていた。営業は15時かららしい。なるほどな。とりあえず時間潰しにサンマルクに向かった。このクソ暑い中なんぼほど歩きゃ気が済む?サンマルクでまったりと時間を潰していざ目当ての古着屋へ。この前行ったときはいい感じのラガーシャツとか軍チノがセールで売られていたけど、今日はどうもハズレくさい。おっ、と思う柄シャツはあったけど今から夏服を増やすのはもう勘弁。悪くもない、と思ったadidasのナイロンジャケットも、悪くない、という服に出せる値段をしてなかったので見送り。奥の方にあったNFLのスウェット、これは欲しいなと思ったけど値札が付いてなかったから店主に聞くと「それまだ付けてない」と一蹴。そんなん見りゃ分かんだから値段を教えろよ、という目で服を見つめていると「12800円」と無愛想に言われる。高ぇ、ほんまにその値段で売る気やった?とちょっとキレそうになりながらソっと服を戻す。出よう。なんの収穫もない1日だった。マジ徒労…。徒労徒労徒労。

 

・海鮮居酒屋、若しくは寿司屋に関する記憶

 宮に行った夜のこと。せっかく三宮まで行って手ぶらで帰るおれを不憫に思ったのか、友達がそれとなく梅田へ行きたそうな感じを匂わせていたからそのまま阪急で梅田に行った。手ぶらで帰るのも癪だったし。まぁ晩飯食べておしまいよなぁとルクアの下にある最近できたフードコート的なところに向かう。最近できたって書いたけど多分2年くらい前には出来ていたような気もする。2年前って最近?そこそこ色んな店があって、(ヤム邸もあったのはびっくりした)グダグダ話しながら3周目あたりで海鮮丼のメニューが見えた店に入った。一人暮らしをしてから1年半ずっと寿司的なもの食べたいと思ってたから。昼にチラッと海鮮丼どうこうも出てた記憶があったし。正直おれは海鮮居酒屋的なノリで入ったんだけど、板前がカウンターにいたりしてなんか本格的な回らない寿司屋ぽかった。他の客もちょっとスカしたスタンスの奴らが多いような気もする。席に案内されて2秒で後悔した。そういえばこの友達と東京に行ったときも夜に築地で魚を食おうと言って大失敗していた。夜の築地は寿司三昧の呼び込みの声しか響いていなかった。魚は昼食うもん、で学習しないと。結局寿司じゃなくてまだ値段控えめだった海鮮丼を2人とも頼んだ。海鮮丼目的で入ったのにそれが許されない空気を店側から感じた。んならメニューに店長おすすめ!って書くなよ。一刻も早く食べて店を出たかった。そんなときに限って席は真ん中の目立つところで、海鮮丼が2つ置かれたテーブルが周りから笑われているようで怖かった。魚は絶対にランチで食べるもの。これは代々言い伝えないと。

・一客一褒めキャンペーン

 おれは首から直接掛けられる財布を使っているんだけど、この前コンビニに行ったとき女性の店員が「それ可愛いですね」と言ってくれた。「あぁ、どうも」的な感じで店を出たけどコンビニから家までスキップして帰った。ただそれからはその財布を首から掛けて行ったら「あ、あの人、この前ちょっと言ったらずっとアレでくるやん」とか思われそうで鞄の中に財布を忍び込ませて行くようになった。だけど財布を褒めてくれた店員はそれから見かけなくなってしまった。シフトの時間が変わったのか、辞めてしまったのか。もしかしたら辞める日にヤケクソになって「一客一褒めキャンペーン」とか勝手にやってたのかもしれない。そもそも褒められたのかどうかも怪しくなってきた。いつもLチキ旨辛を電気代払った後に頼んでくる面倒な客が利用しづらくなるように嫌味のように言ったのかもしれない。真相を確かめたい。また今度電気代を払いに、首から財布をぶら下げてコンビニに向かおう。