2019-5-10

 令和になって10日目の朝。目を覚まし時計を見ると6時30分。どうやって家に帰ってきたのかを覚えていない。ベッドの上は何かを粉々にしたような物が散らばっていてザラザラしている。

 

  昨日はゼミの男子で河原町へ繰り出して、最終的に鴨川でアホみたいに濃いウイスキーを飲んでいた。記憶は漠然とそれくらいしか無かった。とりあえず携帯を見ようと思って、いつもはそこに置いている枕の右側を見たけれど、携帯が無かった。それならと、昨日そのままの格好で寝ていた俺はズボンのポケットを探ったけれど、出てきたのは大量の柿の種だった。ザラザラの正体は粉々になってしまった柿の種だった。ベッドの下にはピーナッツが虚しく転がっている。鞄を探っても見つからなかった。多分俺は鴨川で柿の種と携帯を取り間違えてしまったんだろう。それに気付かないレベルまで飲んでいたことに多少のショックを抱きつつ、俺はこれからどう動いていくべきかを考えた。電車もバスも動いているから、早急に河原町へ行くべきだと思ったけれど、ガンガンと頭が痛くて、どうにも動き出す気になれず、”この時間は通勤通学ラッシュで混んでるやろうし、昼くらいに行ったほうがええよなぁ”とか考えているうちに”まぁなんとかなるわ”と堕落しきった楽観的大学生の考えに至ってしまい、再び眠りに落ちていた。

 

  インターホンの音で2度寝から目が覚めた。俺の住んでいるマンションはオートロックで、大家さん以外には一回俺がオートロックを外す作業が必要だから、俺は都合よく大家が落し物が届いたと言って携帯を渡しにきたんだと思った。そうであってくれと願った。ドアを開けると大家さんではなく、昨日一緒に飲んでいたゼミの先輩が立っていた。何故か俺の携帯を持っていた、と。大家ではなかったが無事に携帯が返ってきたことに安堵した。多分昨日何回も落としたんだろう、画面には泥がこびり付いていた。先輩が”昨日は悪いことをした”と買ってきてくれたサンドイッチとコーヒーで朝ごはんを食べながらラインを開くと、ゼミの女子の先輩から”昨日電話くれてた?”とラインが届いていた。全く身に覚えが無かったけれど、確かに履歴にはしっかりと俺からの着信が残っていた。23時7分、昨日の俺はいったいなにを考えていたんだろう?すぐに謝罪のラインを送ったけれど、本当に自分が恥ずかしくなった。ここまで飲んだことは初めてだった。記憶をなくすくらいに飲む大学生、二日酔いで休む大学生、酔って女子に電話をかける大学生、酔って鴨川に立ちションする大学生、酔って柿の種と携帯を取り間違える大学生、自分がバカにしてきた大学生に成り下がってしまった。恥の記憶としてここに残しておこうと思う。

 

  ラインには他のメッセージもあって、携帯を届けてくれた先輩がグループで同期に俺の家を聞いていた。たまたま昨日、ゼミが早く終わった同期たちを初めて俺の家に入れていて、これが無かったら誰も俺の家を知らなかっただろうから、携帯の受け取りももっと難しいことになっていただろう。ここだけは昨日の出来事の中で唯一の幸運だった。

 

 この文を書いている途中で昨日被っていた帽子も忘れていることに気付いた。これはさすがに先輩も持っていなかったらしい。結局俺は昨日の惨事から12時間後に全く同じ場所に帰っていた。多分誰も後片付けをせずに鴨川を去ったはずだけど、俺たちが飲んでいたと思われる場所には何もなかった。見知らぬ誰かにも迷惑をかけてしまっていた。帽子もなかった。帰りの電車の中で同じ帽子を後払いでネットで購入した。払わないといけないお金だけが増えていく。恥の記憶として残しておこう。